コラム 当社社員によるコラムです。 『水』に関する豆知識から専門的なことまで、ぜひご一読ください。

第1話 水はどこから?
第2話 海の誕生
第3話 月には海がないの?
第4話 雨はなぜ降るの?
第5話 雨が溶かすもの
第6話 海の炭酸ガス固定化
第7話 なぜ海の水は塩辛い
第8話 水の惑星 地球
第9話 水も粒々?
第10話 成分の結合様式
第11話 水の振る舞い①
第12話 水の振る舞い②
コラムニスト:赤崎正照(技術顧問)

第 1 話 水はどこから?

地球を周回する宇宙望遠鏡に命名された「ハッブル」は数多くの観測から「遠い星ほど速い速度で地球から遠ざかっている」ことを見出した天文学者の名前です。この宇宙膨張はあたかも風船が膨らんでいく表面にたとえられ、もし風船ならば膨張前の一点があるはずであり、この一点から宇宙は時間と膨張が始まったとの仮説が唱えられるようになりました。
この仮説を育て上げたのが、ガモフの「ビッグバン理論」であり、この理論では一点で生じた超高温でどろどろの初期宇宙が開闢後短い時間で水素とヘリウムが生じたとされています。理論から導かれた水素とヘリウムの宇宙空間における存在比が近似にあることがこの仮説の信憑性を高めています。
COBE、或いはWMAPの宇宙背景放射の観測から、均一で一様と思われていた宇宙はその初期からある種の揺らぎを持ち、この不均一はガスの集積を誘い、その中心圧が水素を融合してヘリウムを形成する程の質量を持つに至り、ここで発生する膨大なエネルギーは発火し、宇宙には再び明るい灯火をみるようになりました。
核融合は更に進み、炭素や酸素の低原子を生み出しますが、鉄以上の融合は負のエネルギーを生じることから、核融合は鉄を最大原子として停止します。エネルギー補給の低下は内圧の低下を促し、ここに星の重力崩壊が始まります。このとき太陽より質量の大きい星は超新星爆発を起こし宇宙に四散します。このときの重力崩壊から爆発にいたる間に原子は途方もない圧力を受けて、核融合が急速に進んで、地球上にみられる鉄より重い重原子を生成させたとされます。
地球の誕生はこうした第一世代以降の星の藻屑から生まれました。即ち、水は、元素は、生命は、星の核融合によって作られたものであるのです。 「だから、水はあの星を越えて、あの空を越えてやってくる。」

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第 2 話 海の誕生

初期の地球は小惑星が衝突と離散を繰り返して質量を増大させていくとともに、衝突から生じる熱エネルギーで地表面は溶けてマグマの海を形成し、小惑星に含まれていた炭酸ガスと水蒸気は蒸発して原始大気を形成したとされています。
このような経過から地球の原始大気は現在の金星(炭酸ガス96%、窒素3.5%、SO2 0.015%)の大気に似ていただろうと推測されています。金星は温室効果により地表温度は400℃以上、大気圧は90気圧にも達していますが、幸いにも地球は徐々に温度が下がっていく幸運に恵まれ、大気中の蒸気は液体となって地上に落ち、ここに初源の海ができたとされています。
水は大気中の炭酸ガスを溶かして地中に浸み込み、溶解した炭酸ガスは地殻中のアルカリ成分と反応して固定化されていきます。このような工程を得て窒素を主体とする大気へと移行し、更に32億年前に酸素を作り出す光合成菌シアノバクテリアの登場を経て現在の大気の基礎が形成された。これが今のところ認知されている地球や海および大気の創生シナリオです。
この流れの中で最も重要な事象は金星と異なり地球では大気中の水蒸気が液体の水に変化できるようになった事にあります。しかし残念ながら地球の大気温度が低下した原因は明らかになっていない様子です。

そこで地球創生の初期には今の金星の様に濃い大気は存在していなかったとの想像をしてみました。
「はやぶさ」が到達した微小惑星「イトカワ」、これよりはるかに大きい質量を持つ月にも大気は殆ど存在しません。
月よりも更に重たい火星でも大気圧は0.075気圧にすぎません。星の大気濃度は基本的に星の質量に比例します。
大気上層部にあるガス成分は太陽の光を受けて、星の重力から逃れるほどの速度を得ることがあります。ガスが得られる速度は分子(原子)量が小さいほど早く、例えば水素分子を留めておくことが出来る惑星は土星や木星に限られます。微惑星の衝突と集合で地球が形成されたものであれば、「微惑星にはガスをとどめるほどの質量は存在せず、これらが集合して出来た原始地球には希薄な大気は存在しても濃厚な大気は存在しなかった。」との想像です。
この空想では原始地球大気は小惑星が集合して現在の地球の半分ほどの質量(水蒸気を留める事が出来る)に成長した後に、宇宙を漂うガス状成分を捕捉して形成されてきたものとなります。
もっともこの空想も、マグマの海が存在した場合には絵空事になります。なぜなら、微惑星に含まれる炭素の酸化物量が多ければ、原始大気の炭酸ガスは自前のものが大部分ということになるからです。大気に関する検討は地球の質量がどの様に増加してきたか、原始太陽の活動は現在と比較してどうだったかを知る必要があるかと考えます。それが不明な故にこうした想像ができる面白さもあります。

第 2 話   海の誕生
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第 3 話 月には海がないの?

「地球には水が溢れているのに月には大気も海もない」という不思議さは誰でもが感ずることです。月面には「静かの海」にみられるように海の名がつく地形もありますが、これは平たくて幾分黒っぽくみえることからの名前で、月表面には大気も水も存在しないことが確認されています。しかし永久影(太陽光が射さない場所)では水の存在が確認されている様子です。地球の重力から離れるための脱出速度は11.2km/秒ですが、月の質量は地球の1/80と小さく脱出速度は2.4km/秒と遅くなります。すなわち月での2.4 km/秒を越える速度は月に留まっておくのが不可能な速さといえます。

つい最近の新聞での「太陽風ヨット」の記事は大洋を吹き渡る風のように、太陽の光もまた宇宙ヨットをも動かせることを解説していました。太陽光には大きい重量を持つヨットさえも動かす力があるのです。太陽光に力がある事は、ほうき星の尻尾の観察で確認できます。尻尾の吹き出し場所は常に太陽の反対側に流れています。これは太陽によって熱せられて生ずる水蒸気や微細な粒子が太陽の光で反対側に飛ばされることから生じる現象です。
さて石を投げるとき、投げる力を同じとするならば、手に余る大きな石よりも小ぶりな石のほうがより早くより遠くへと飛ばすことができます。水蒸気(H2O)1個の重さは3×10-23gであり、太陽の光がヨット宇宙船をも動かせるものであれば、この重さの水分子に太陽光が衝突したとき、星から脱出できる程の速度を与える事があり ます。 この速度が得られるとき、ガスは長い年月には殆ど消失し、海の形成はおろか大気さえ存在しえないことにもなります。
「太陽光の波長とエネルギー」グラフにみられる様に太陽光は200nm近くまでの波長が利用可能です。宇宙線や激しい太陽活動時を考慮して125nmの波長を上限として、ガス成分が得られる最大速度(波長の全エネルギーが運動エネルギー変換されると仮定)を表にまとめてみました。月面では分子量の大きい炭酸ガスでさえも624nmの光が当たると3 km/秒に達し、月の脱出速度を超えてしまいます。だから月には海は無論のこと大気も殆ど存在することが出来ません。月より8.7倍の質量を持つ火星(脱出速度5.0km/秒)でさえもガスを留めておくことは難しく、計算では火星の4倍程度の質量になって水蒸気を留められる大気の形成が可能なようです。ちなみに地球の質量は火星の9.3倍です。

第 3 話 月には海がないの? 1

第 3 話 月には海がないの? 2
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第 4 話 雨はなぜ降るの?

膜の抵抗がまったくない、例えばシャボン玉を想像してください。膜の抵抗がないとすれば、シャボン玉の内部圧力は周囲の環境の変化にも関わらず大気圧と常に平衡にあることになります。0℃で湿気を全く含まない空気1m3をシャボン玉内に閉じ込めた後、52.6gの水を加えます。水の一部は水の持つエネルギーと蒸気の持つエネルギーが等しくなるまで空気中に溶け込んでいきます。
水の溶け込み量は温度によって変化し、各温度における残留する水と空気への溶け込み量を図に示します。

本来なら水の溶け込みと温度の上昇によって容積も大きくなりますが、ここでは容積変化は無視しています。
40℃では52.6gの水の殆どは空気中に溶け込み、20℃では17.3g、0℃では4.9gが溶け込みます。
今度は反対に20℃の飽和空気が0℃に、40℃のそれが20℃に低下した状態を考えます。
この条件では差分の12.4g/m3と35.3g/m3が雨として落ちてくる理屈になります。大気層が1km×10km×5kmの容積を持つと仮定すれば、降り落ちる雨量は620000tonと1765000tonとなり、冷気と暖気が重なりあう前線の面積によっては、時間当たりの降水量が100mmを越えることがあって不思議ではありません。このように雨は高い温度の大気が冷却(暖気と冷気の接触-前線-或いは積乱雲に観られる高空での温度低下)されたとき、その温度以上の蒸気が含まれる条件で発生します。
洗濯物の乾燥は雨の降り出しとは反対に洗濯物に付く水が空気湿度を飽和に持っていこうとする水(水蒸気)の逃げ出しで進行します。温度が高いほど空気中に保持できる水分量が多くなることから、温度と乾燥度が高いほど乾燥が速く進むことになります。このため自動洗濯機では温度を高くして乾燥度を高めた空気を送り込むことによって短時間での乾燥を行います。しかし、真っ盛りの夏であっても、夕立時の洗濯物の乾燥の遅さから、乾く速度は温度よりも乾燥度に負うところが大きいと実感されます。

第 4 話 雨はなぜ降るの? 1

第 4 話 雨はなぜ降るの? 2

循環冷却水での循環水の冷却は送られる空気の蒸気圧を飽和に持っていこうとする循環水からの水の移動(蒸発)によって行われます。水が蒸発する際には1kg当り540kcalの蒸発熱を必要とし、この熱量は循環水から補給され、この蒸発分に応じて循環水温度が低下することになります。開放型冷却塔の設計基準に湿乾球湿度差の規定があるのは、洗濯物の乾燥と同様に冷却効率は空気の乾き度に支配される理由によります。

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第 5 話 雨が溶かすもの

地上に降り落ちた雨は地表或いは地中の岩石に触れてこれらの成分を溶解し、一部は塩湖を形成する地勢に、多くは海に流れ込んでいきます。
さて雨水で溶け出す成分は地殻を形成する鉱物の成分存在量によって大まかなところが定まります。右表に地殻中の成分の存在濃度を掲げます。上段の4成分で全体の88.3%を構成し、地殻は岩石の代表的組成を有しています。「点滴石をも穿つ」は滴り落ちる水の運動エネルギーによって石に穴が穿たれる様を想像させますが、主成分であるシリカ(SiO2)は25℃で120mg/L程度の溶解度を持ち、このため地殻を形成する岩石類は水に溶ける性質を持っています。ここで地殻に含まれる成分を強いアルカリを示す成分(Na,K,Ca,Mg)と強い酸を持つ酸成分(Cl,F,P,S,N,C[弱い酸])に分けてその存在比を検討するとき、炭酸カルシウム(CaCO3)換算比ではアルカリ成分が相当に多く含まれているという結果が得られました。
思い出してください。「地球は小惑星の衝突で形成され、衝突エネルギーによって生じたマグマの海は炭酸ガスと水蒸気を生じさせた」。
もし微惑星中の炭酸ガスが炭酸カルシウムの様な炭酸塩から構成されているとすれば、炭酸ガスが逃げた残渣はアルカリの性質を持つことになります。この性状が現在まで残っているかは疑問ですが、地殻の組成からも鉱石を溶かした雨水はアルカリに偏らざるを得ません。しかし河川水のpHは一般に中性付近にあり、pHのみではこの現象を身近に感ずることはできません。この現象は雨水で生ずるアルカリは環境に存在する炭酸ガスを吸収して中和され、重炭酸塩を形成する反応によって引き起こされます。この成分は水処理分野では酸消費量pH4.8の用語で呼ばれ、この濃度欄に数値の記載があれば、その用水は基本的にアルカリの性状を有するものと判断されます。
河川水に含まれる成分の平均濃度を表に掲げます。
日本、世界ともに重炭酸イオンがかなり含まれており、河川水の性状は アルカリであることを示しています。 地勢によっては強い酸性や強いアルカリ性を示す河川や湖沼もありますが、これは火山活動や温泉に由来するものであり、雨水の範疇にはありません。 雨は岩石を溶解し、岩石から溶出するアルカリは炭酸ガスを吸収して塩湖や海に流入します。雨は同時にカルシウムイオン等を含む陽イオンも溶解して海に流入させます。炭酸ガスの真の意味での固定化は雨水が流入した塩湖や海で行われることになります。
固定化といえば先詰まりの工程を思い浮かべますが、海底に沈んだ炭酸塩はマントルに戻り、ここで熱分解を受けて再び炭酸ガスとして地上に戻るサイクルを繰り返していると考えれば、地殻中でのアルカリ成分の存在量の多さは原始地球に原因を求めなくてもよいのかもしれません。

第 5 話 雨が溶かすもの 1

第 5 話 雨が溶かすもの 2
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第 6 話 海の炭酸ガス固定化

炭酸ガスを海底に送り込んで安定化させる固定化は既に検討されている方法ですが、海は基本的に炭酸ガスを固定する能力を持っています。炭酸ガスの水への溶け込み量は大気中の炭酸ガス濃度に比例し、25℃では大気中の炭酸ガス濃度1ppm当り0.0014mg/Lの炭酸ガスが水(海水ではこの値より幾分低い)に溶解します。現在の大気中の炭酸ガス濃度は350ppmを超える濃度にあり、この濃度では0.5mg/Lの炭酸ガスが水に溶解します。 溶解量は1m3の水に1円玉半個分と僅かな量ですが、海水にこの濃度が溶解したとすれば、溶解総量は6.85×1011tonと莫大な量になります。しかしこの量が既に溶け込んでいるものとすれば、炭酸ガス溶解による海の固定化能力は既に満杯に近いといえます。海の優れた炭酸ガス固定化能力は海水のpHが現在の8.3を維持できれば、大雑把にいうと溶解しているカルシウムイオン(Ca2+)と重炭酸イオン(HCO3-)濃度の積である55600の値が両者の溶解度を規制することにあります。
溶解濃度の積=400mgCa/L×139mgHCO3 /L=55600=一定 この式はカルシウムイオンが濃くなれば重炭酸イオン濃度が低くなり、重炭酸イオン濃度が高くなればカルシウムイオン濃度が低くなることを意味します。
pH8.3の環境では両者の積の濃度がこの値を超えると、炭酸カルシウム(CaCO3)が生じて海底に沈んでいくことになります。河川水の世界平均濃度では重炭酸イオンは52.0mg/L、カルシウムイオン濃度は13.4mg/Lですが、海水中のそれは139mg/Lと400mg/Lでしかありません。この現実は両者の濃度の積が55600を超えることが出来ないという制限によるものです。この現象は冷却水が濃縮によって炭酸カルシウムのスケールを形成する反応と全く同じです。pHが低く(酸性化現象)なればこの濃度の積は大きくなり、海水中の重炭酸イオン濃度が増加して、溶解する炭酸ガス量が多くなってよい方向に作用しがちと思われます。しかし、この思いは逆で、pHの低下は既に固定化されている魚卵石や珊瑚等を溶解して、環境に炭酸ガスを放出する作用が大きくなります。炭酸は水中で右表にみられるようにpH上昇は炭酸イオン(CO32-)の割合を増加させ、炭酸カルシウム(CaCO3)の沈殿反応 Ca2++CO32-⇔CaCO3を促進させる方に作用します。pHが低くなると炭酸カルシウムの沈殿を抑制し、更なるpH低下はこの成分を溶解する方向に作用します。炭酸カルシウム単独の沈殿はバハマ諸島に観られる魚卵石の形成に代表されますが、副次的にはサンゴ礁や貝類の殻の形成に役立っています。このように海は炭酸ガスを炭酸カルシウムとして固定化する能力を有しています。

第 6 話 海の炭酸ガス固定化 1

第 6 話 海の炭酸ガス固定化 2

第 6 話 海の炭酸ガス固定化 3

写真上:魚卵石 下:サンゴ礁
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第 7 話 なぜ海の水は塩辛い

雨は営々と繰り返し降り落ち、雨水は鉱物を溶かしてその一部を連綿と海に運び入れます。海の容積は一定であること、降水量に見合う海面からの水の蒸発によって、海中の成分は次第に濃縮されていき、現在は食塩として3%近くの濃度に達しています。3%の食塩を含む故に海の水は塩辛いのです。この塩辛さは時間を経るごとに段々と強くなっていき、地殻(マントル)中の塩分量によっては飽和食塩水の海が出来上がることになります。

この話のみではあまり面白くないので、河川水と海の成分濃度から遊びの計算を行ってみました。表に世界の海と河川水の平均的な成分濃度を掲げます。河川水以外に海への成分が補給されないものとすれば、海の成分は46億年をかけて河川水に含まれる成分が濃縮されてきたものといえます。ここで陸上のみの年間降雨量の全てが河川水として海に戻るものと仮定して、現在の濃度になるに必要な年数を求めてみました。シリカ(SiO2)は低い溶解度を持つ事、カルシウム(Ca),マグネシウム(Mg),硫酸(SO4),重炭酸(HCO3)イオンの成分は互いの濃度相関によっては溶解度の低い化合物を作って沈殿することから、これらの成分を用いた必要年数の計算には意味がありません。しかしナトリウム(Na),カリウム(K),塩化物(Cl)イオンからなる化合物は一般に溶解度が高く、必要年数は基本的に近似の値になるものと思われます。しかし計算では最も長い年数を要した塩化物イオンでさえ、僅か1億8千万年の年数で現在の濃度に達します。地球開闢以来の46億年に延ばす手段として、全雨量の3.9%のみが海に流れ込んだとの補正もできますが、それでも成分ごとの必要年数の相違を説明することは出来ません。多分この相違は地球規模の成分の物質収支を探る手段になりうるかも知れません。例えばマリンスノー等の有機物や無機物を含めた堆積物を日本の太平洋側に搬送するプレートが日本の沖合で沈んでいくとき、堆積物が柔らかくて取り残されるものであれば、日本海溝は年々に浅くなり、「日本沈没」よりも「日本浮上」の傾向があってもよいのではと思われます。しかしその現象が観察されないということは、プレート上に堆積した有機及び無機成分は極めて硬質のものに変化し、地殻深くにもぐるという先祖帰りを繰り返しているのかもしれません。

第 7 話 なぜ海の水は塩辛い
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第 8 話 水の惑星 ― 地球

「水の惑星―地球」が実感として意識されるようになったのは、人類最初の宇宙飛行士ガガーリンの「地球は青かった」。さらにアポロ計画で達成された月面からの嫋々とした地球の画像によるところと思われます。このように地球表面の70%は溢れかえる水で覆われ、海の平均深さは3800mに達するにもかかわらず、地球重量に占める海水の割合は0.02%(宇宙の元素数割合から、酸素の全量が水素と反応して水を作るとき、水の存在割合は全質量の0.93%程度となります。しかし水は他の成分と色々な反応を通じて消費されることから、0.02%は普遍的な値かもしれません)にすぎません。使用可能な淡水は全水量の3%程度と少なく、その内の大部分を北極や南極の氷山が占める事から、使用可能な水は極めて少なくなってしまいます。世界人口を65億とすると一人が有する淡水量は1740000m3と膨大な量に達しますが、降雨水のみを対象とすれば世界平均では46m3/日が使用可能な水量となります。しかしGoogle Earthを覗くと茶色の砂漠にも似た広範囲な広がりを持つ大地も観られ、降雨分布はきわめて不均一である事が分かります。四海に囲まれた日本の年降雨量は1700mmと恵まれていますが、面積の狭さと人口の大きさから年間降雨量を前提とすれば、一人当たり14.6m3/日と世界平均の1/3に低下します。

国土交通省水資源部の報告では、わが国の年間降水量は6400億m3、内2300億m3が蒸発、831億m3が農業、工業及び生活用水に使用されています。6400-2300=4100億m3が水資源賦存量と呼ばれ、この水量を対象とすれば、国民一人当たりの使用可能水量は9.3m3/日と更に低くなります。水資源賦存量は年間使用水量のほぼ5年分に相当しますが、この値は貯水できればとの仮定であり、南北に狭い国土をもち、急速に海に流入する河川は貯水能力に劣ることから実質的な使用可能水量は低く、貯水能力の低さは短い日照りでも取水制限のニュースが報道されることからも実感されます。支笏湖が20湖あれば5年分の、4湖で年間使用水量をまかなうことが出来る計算になります。近年頻繁に起こる水不足の解消には貯水能力を高める以外になく、その方策はダムや大きな溜池及び田の作付面積の拡大ということを思い浮かべますが、世相はなんとなく反対の方向に舵取りされているように感じられます。

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第 9 話 水も粒々?

幼い頃感じたことはありませんか。「目には見えないけれど、水は小さな粒々で出来ているのでは?」。そうです。水も非常に小さな粒々から出来ています。水は二つの水素(H)と一つの酸素(O)で構成され、化学式ではH2Oと表します。また18gの水の中には天文学的な数 6×1023(600000000000000000000000)個の水分子が存在することから、水分子1個当たりの重さが3×10-23 (0.00000000000000000000003)gの非常に小さな粒からできているといえます。分子を球と仮定してギュウギュウに積み重ねたとすると、その球の直径は3.4×10-8(0.000000034=3.4Å)cmと計算されます。この大きさは右に描かれる水の構造図に近似します。この構造図にはみられませんが、水素と酸素の電子引き合いによって電子は酸素側に偏って存在し、このため水素は正に酸素は負に帯電した状態にあります。しかも二つの水素の位置が酸素の真反対になく、104.5度の角度で結合している事です。正負の帯電と結合角度が他の化合物とは異なる水の不思議な性格を導くことになります。ここで単純な遊びを行ってみます。水素原子は陽子1個と電子が1個から構成される最も軽い元素です。陽子の重さは既に知られているので大きさが分かると密度は計算できます。陽子の直径は2×10-13cm程度とされており、直径と陽子重量1.67×10-24gから密度を求めると以下の値を得ます。その密度は399,673,567t/cm3の想像を超えた大きさになります。

この密度は超新星爆発後に残る中性子星の370,000,000t/cm3(Wikipedia)に近似しており、それほど的はずれの値ではない様です。地表で軽やかに吹き渡る風の中にも、微小な世界で見るとこのように大きい密度が存在することはとても不思議に思えます。尤も現実に戻って水素ガスで検討すると、2gの水素は0℃、1気圧で22.4リットルの容積を持つことから0.000089g/cm3と水に比べても水素は遥かに軽い密度を持った成分ということになります。ビー玉を水中に落とすとき、最初はゆっくりと、段々早く、最終的には一定の速さで沈んでいきます。この最終速度はビー玉の直径と密度がわかれば「ストークスの式」を用いて求めることが出来ます。直径=2×10-13cm、密度=399,673,567t/cm3の世界にこの式が応用出来るかどうかは不明ですが、この式を用いた計算では、1年間当りに1.5mm程度の沈降距離が得られます。非常識に密度が大きいけど軽いという表現は微小な世界にいりこむと不思議でなくなるのが不思議です。

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第 10 話 成分の結合様式

物質は気体、液体、固体の三態で存在します。
結晶構造に関しては右脳の働きが優れた人にお任せするものとして、ここでは単に有機物の代表的結合である共有結合と食塩等にみられるイオン結合について述べてみます。元素は同じ数の陽子と電子から構成され、電子は陽子を核としてその周りを周回します。電子軌道には住所番地があり、また住所に入れる電子数も決まっています。右に軌道番地と軌道に入居可能な電子数及び水素、酸素、ナトリウム、塩素元素の電子構成を掲げます。この表は化学反応がいかにして進行するかを理解するための一つの重要な指標となります。化学反応は基本的に最外核の電子軌道に存在する電子数が偶数になるように、出来れば入居可能な電子数を満足するように進行することを念頭において下さい。
水素元素は陽子とK(1s)軌道に1個の電子から構成されます。2個の電子で安定する軌道に1個しか存在していないことから水素元素は基本的に不安定さを持つ成分であり、このためこの軌道に2個の電子を取り込もうとします。最も簡単な方法は互いに1個の電子を出し合って共有することにより、K(1s)の軌道に2個の電子配置を完成させます。この配置換えは2H→H2の反応で示され、水素分子として安定に存在することが可能となります。酸素はL(2p)軌道に4個の電子を持ちます。この軌道では6個の電子数が最も安定な状態である事から、2個の酸素元素は2個の電子を出し合って酸素分子として安定します。水素と酸素の反応では2個の水素元素が2個の電子、酸素元素から2個の電子を提供することで安定な水を形成します。このようにお互いの電子を共有しあう結合を共有結合といい、一般に有機化合物がこの反応に預かります。一方、食塩(塩化ナトリウムNaCl)の片割れのナトリウム元素は11個、塩素は17個の電子から構成されますが、反応に預かる最外核電子軌道にはNaはM(3s)に1個、ClはM(3p)に5個の電子を持ちます。この二つの元素が遭遇した場合、NaはClに1個の電子を与えてM(3s)軌道を空位にし、一方、電子1個を受け取ったClはM(3p)軌道の電子数を6個の満杯として安定します。電子のやり取りからNaは正にClは負に帯電し、陰陽引き合って電気的に安定します。この電気的な結合をイオン結合と呼びます。
水は水素と酸素の共有結合からなりますが、大きな分極を持ち、この分極はイオン結合的な性状をもたらします。この二つの結合様式を持つため、水は他の成分と比較して特異的な振る舞いを行うことになります。

第 10 話 成分の結合様式 1

第 10 話 成分の結合様式 2

第 10 話 成分の結合様式 3
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第 11 話 水の振る舞い①

化学では成分の分子量が大きいほど沸点や凝固点が高くなっていくのが一つの常識となっています。そこで分子量が水に近い、かつ馴染みのある成分の融点、沸点及び蒸発熱と水の相違を表に掲げてみました。この表から水は分子量が小さいにもかかわらず、全ての値が群を抜いて大きいことがみてとれます。
この特異性は水の構造から説明されています。水の構造図と水の分極図を掲げます。水は水素と酸素の共有結合で結びつき、H-O-Hの化学構造で表されます。共有結合であるが故に水素が正に、酸素が負に帯電することに違和感を覚えますが、結合元素間には電気陰性度(電子を引きずりこむ力)が作用し、水でいえば分子内の酸素と水素との間で電子をめぐっての綱引きが始まります。この綱引きは酸素に有利に作用して、酸素サイドに電子が偏ることになります。この結果、水素は正に酸素は負に帯電する双極子(短い距離を置いて両端に+qと-qの荷電を持つ様。電気陰性度による電気双極子の上の図)を形成します。
両水素が酸素の真反対の位置ならば双極子を形成するのみですが、H-O-H結合角は104.5度であり、双極子モーメントを持つことになります。水のもつ特異性はこの強い双極子モーメントに由来します。 クラスター図に示すように、強い双極子モーメントは一つの水分子の酸素に他の分子の水素が電気的に結びつく(水素結合という)ことを許容し、 更に連なりを進めて分子集団(クラスター)を形成します。クラスター形成により見かけ上の分子量が大きくなることが、このような特異性を招くと説明されています。 水は優れた溶媒としての性質を持っています。これは水が極性を持つ事から食塩(塩化ナトリウム)のようなイオン結合からなる成分には基本的に親和性を有することが一つの理由です。また水は砂糖やアルコール等の有機物もよく溶かしますが、これは共有結合からの共通性と水と有機物との水素結合によりさらに親和性を増すことにあるとされています。尤も溶解される成分も少しは双極子モーメントを持つことが必要であり、例えば双極子モーメントを有しないメタンや炭酸ガスの溶解量は微量でしかありません。

第 11 話 水の振る舞い① 1

第 11 話 水の振る舞い① 2

第 11 話 水の振る舞い① 3
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第 12 話 水の振る舞い②

水は水素の酸素燃焼によって生ずることから、酸化環境にある地球大気中では熱的にも極めて安定していることに大きな特徴があるかと考えます。水(H-O-H)のH-O結合エネルギーとボルツマン定数から求められる水の理論分解温度は50000℃に相当します。幸いなことに今まで観測された地球上の最高気温は1921年イラク(バスラ)での58.8℃であり、地球の温度環境ではとても水を分解できる温度に達することはありません。この安定さこそが地球の穏やかな環境を作り上げているものと考えます。

水の持つ大きな比熱と大きな蒸発熱と地球の70%の面積を占める海洋は地球の熱調整に大きく作用しています。蒸発と凝縮での吸熱と放熱を思えば熱のやり取りは同じですが、例えば真夏の打ち水のように太陽から来る熱量は同じであっても、熱の一部は水の蒸発に使用され、蒸気移動に伴う熱の移動によって環境温度を抑える作用があります。水が変化した空を覆う雲は太陽の光を直接宇宙に跳ね返して地球の温度を低下させる作用があるといわれています。
低い蒸気圧は酸素呼吸生物に大きな利点を与えます。水とアルコールの蒸気圧(アルコール類はWagner式から求めた)をグラフに示します。40℃での水の蒸気圧は 0.072kg/cm2、メタノールでは0.35kg/cm2に達します。もし水が40℃でこの蒸気圧を持ち、かつ100%の湿度環境にあれば、大気中酸素濃度は14%程度に低下して酸欠状態となります。もちろんこの酸欠は現存する酸素呼吸生物を対象としたものであり、生命は長い時間をかけてその環境で進化することを思えば、この濃度を問題とする深刻さはないのかもしれません。しかし、1m3中に240g程の水を含む大気からの雨量はノアの箱舟を想像させるほどにすざましい風景を作り出すものと思われます。

高沸点の利点に関しては平地での料理に圧力釜を必要としない事しか浮かんできません。しかし毎日の食卓で生煮えよりもホクホクのおいしい手料理が食べられるということは、この性質が日常生活に与える恩恵はとても大きいことになるかと考えます。
高融点は多くの問題に絡んでくる要素があるようです。地球上で記録された最低温度は-89.2℃(南極、ボストーク基地)であり、この温度はメタノールの融点-97℃より高い温度です。もし水の融点がこの温度であったら、南極、北極、グリーンランドに存在する地球上の氷はみな融けて存在しないことから、海面は大きく上昇し、地勢に大きい影響を与えることは論をまちません。地球儀をみれば直ぐに判る様に北極に氷がなければ北極航路の繁栄は誰にでも想像できます。北極航路が国々に多くの繁栄をもたらすものであれば、国際的な政治情勢も今とは大きく変わっていたかも知れません。
いずれにしろ地球上の生き物は多くの影響を水から受けており、水のあり方にそって進化してきたものと思われます。水が存在した故に生命の発生があったことこそ、水の振る舞いの中で最も重要な位置を占めるものと思われます。

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